山川出版社
パタゴニアが証明する「持続可能な」取り組み

エシカルビジネスとアパレル業界の未来

どうしてこんなに大切な言葉を、誰も今まで教えてくれなかったの?
山川出版社:この一文は、かつて末吉里花さんが小学校5年生の女の子にかけられた言葉。エシカルは自分でモノを買うことのできる大人向けの道徳と受け取られることがあるという。しかし、末吉里花さんが代表をつとめるエシカル協会では、将来の消費を担う子どもたちへの教育を重要なミッションの一つとしている。
学校
今回は、エシカル協会、サーフィンや登山などアウトドアスポーツのブランドとして人気の高いパタゴニア、社会科の教科書や歴史書を発行する山川出版社、各社の理念が共鳴したことで実現した三省堂書店池袋本店でのトークインベントの内容をご紹介します。ゲストにお招きしたパタゴニア日本支社長の辻井隆行さんには、アパレル業界の裏側や、パタゴニアが考えるエシカルについてお話し頂きました。
末吉里花Rika Sueyoshi
一般社団法人エシカル協会代表理事/フリーアナウンサー。「世界ふしぎ発見!」のミステリーハンターとして世界各地を旅するなかフェアトレードに出会ったことから活動をはじめる。昨年11月、著書『はじめてのエシカル―人、自然、未来にやさしい暮らしかた』(山川出版社)を刊行。
辻井隆行Takayuki Tsujii
パタゴニア日本支社長 2009年より現職。2003年にグリーンランド、2007年にはパタゴニアに遠征し、シーカヤックと雪山滑降を楽しむなど自然と親しむ生活を続ける。2015年より、長崎県の石木ダム建設計画見直しを求める活動(ishikigawa.jp)を通じて、市民による民主主義の重要性を訴える。2016年、日経ビジネス「次代を創る100人」に選出。
ミステリーハンターとして目にしてきた
アンフェアな世界
末吉:私たちは今、たいへんリーズナブルな価格で洋服を買うことができます。それは何故でしょうか?理由は実にシンプルで、生産者と消費者の間にアンフェアな取引が行われていることが根本的な原因であることが多いからです。
例えば、洋服の原料であるコットンについて、日本は99.99%輸入に頼っている現状や、一つの服になるまでにどのような人びとが関わっているのかご存じでしょうか。また、コットンは、畑に害虫が多い作物なのですが、収穫時に不純物が混ざらないよう、大量の肥料・農薬・枯れ葉剤が使用されています。その量は、コットン畑が世界の2.5%の耕作面積であるのに対して全農薬使用量の16%に相当します。これによって、年間約300万人の健康被害と約2万人が死亡している現実があります。また、世界には約1億6,800万人にのぼる小さな子どもたちがコットン畑で受粉や収穫といった長時間労働を強いられている児童労働の問題もあります。
私は、ミステリーハンターとして世界中を飛び回る中で、こういったアンフェアな現実を多く目の当たりにしてきました。だからこそ、フェアトレード(公正な貿易)によって、生産地域に雇用を生むことが、現地の人びとの経済的な自立を促し、結果的に安全かつ家族が一緒に生活を送れる第一歩になると考えています。
家族と一緒にくらす
誰がどこでどうやって作ったのか、モノとのあいだには厚い壁がある。
末吉:2013年にバングラデシュの縫製工場ラナ・プラザで、違法に継ぎ足しされた建物の崩壊により1,100人以上が下敷きとなる悲しい事件が起きました。この事件は、世界的にもよく知られたブランドの下請け工場で発生したこともあり、大量生産の現場も大量消費する側も変わらなければならないきっかけとなった事件です。
価格やデザイン、スペックといった顧客のニーズに応えることはもちろん大切なことだと思います。しかし買うときにモノの背景が見えにくい今、大都市において500円で売られる洋服のしわ寄せはどこにいくのかを考えて頂きたいと思います。
リーズナブル(resonable)のもとになっているリーズン(reason)。安いのには理由(reason)があることを少しはお分かりいただけるかと思います。
パタゴニアの取り組みでみえてきた、フェアな世界への架け橋
辻井:末吉さんがおっしゃる通り、生産者側の生活にいかに配慮したビジネスモデルが構築できるかは大きな鍵だと思います。最近では、環境に配慮された商品は増えてきているものの、世界中の数々の問題を解決するためにはそれでは足りないと考えています。つまり、モノづくりをする人を守る、すむ地域を守ることを含め、環境に配慮されたビジネスモデルの構築を積極的に進めていかなければならない段階だと思います。従って、我々パタゴニアでは、具体的に以下の二つの考えを徹底しています。


1. いま、地球上で手に入りうる環境負荷の少ない素材を使って製品づくりをすること
コットン製品は有害な農薬を使用しないオーガニックコットンを100%採用しています。そして、つくられた製品は、生産農場や卵までが追跡可能なシステムで管理されています。また、ダウン製品は動物福祉にも配慮しています。従来のダウン製品は、ライフプラッキングといって水鳥の毛を生きたまま採取する手法が主流ですが、これは新たに生えてくるためコストが抑えられるメリットがある一方、動物にとって苦痛を伴うデメリット(人間なら髪を抜かれるくらいの苦痛)があると考え、リサイクル・ダウンの供給に取り組んでいます。


2. 契約農家や工場で働く人びとが安全で快適に過ごしていけるように配慮すること
フェアトレードを徹底し、生産者への報酬は最低賃金ではなく十分な生活が送れるよう、取引価格に加えてプレミアム(上乗せ金)を労働者の口座に直接振り込める仕組みになっています。このように、正当な対価を支払うことで、労働者の皆さんはお金の使い道を学校や病院の建設の足しにするなど話し合うことが可能になり、結果的にフェアな未来に向けた架け橋となるいい仕組みだと考えています。


このような環境に配慮した取り組みから、食品や投資の分野においてもチャレンジを続けています。パタゴニアが持続可能で成長できるビジネスモデルを示してきたことで、現在では、ナイキなど世界の大企業も一部をオーガニックコットンへ切り替える動きも出てきています。
タゴニアの取り組み
お金を使うことで、自然環境や人びとも守れるのか?
末吉:結論からいうと守れると考えています。これは、エシカル協会が環境を守る方法の一つとして提案している「人、自然環境、社会、地域に配慮した、お金の使い方やライフスタイル」に関連します。人は誰もが「消費者」であり、消費とは「モノづくりを応援すること」、「企業に投資すること」であるともいえます。つまり、一人ひとりの消費の積み上げこそが企業の在り方や、環境への影響に大きく関係するのです。例えばGDPの約6割は個人消費です。この事は、消費の影響力がどれだけ大きいかを表しているといえます。一見、自分には何も出来ないと思ってしまうような地球規模の大きな問題でも、一人ひとりの消費に対する選択こそ解決に向けた変化を促す一つの手段に成りえるといえます。だからこそ、モノを手にとる際、自分にとってのメリットだけではなく、遠くで作って下さる人びとが毎日健康でいられて、環境に配慮された社会を想像しながら消費することの大切さがあると考えています。
もったいない事実!日本人は服を1年間に10着買い、8着を捨てている。
辻井:GDPの観点ではなく、環境に配慮された社会という観点から消費を考えた場合、お金を使わなければ、人びとが毎日健康でいられて、環境に配慮された社会に貢献できないわけではないと考えています。シンプルに考えて、モノをたくさん捨てているのであれば、無駄に買わないのがベストです。リサイクルやアップサイクルのようにお下がりを大切に着たり、修理をしたりしながら長く使っていくという選択肢も環境に配慮した行動であると思います。これは、日本人のDNAに残っている良い価値観であり文化で、かつては当たり前のことでした。パタゴニアにもそのような考え方は根付いており、リペア部門が存在します。思い出が詰まっているものを大切にしたい多くのお客様にご活用頂いている大変人気な仕組みです。
エシカルの覚え方は「影響を、しっかりと、考える」
末吉:冒頭にお話しした通り、「生産地域に雇用を生み、現地の人びとの経済的な自立を促すこと」が非常に大切な考え方だと思います。なぜならば、思いやりから生まれていても、自立支援がともなわない場合、結局、悪影響を及ぼしてしまうからです。具体的には、先進国から送られてくるリサイクル品について、途上国側42か国から禁止令がでている事実があります。思いやりで届けられたリサイクル品が、港に山積みにされて余っているのです。また、タダでもらえる環境が続くと現地の産業を潰してしまったり、働く意識を失わせてしまったりといったことも引き起こしてしまいます。 我々は、思いやりが上から目線にならないように、あくまでも目的は、現地に雇用を生みビジネスのパートナーシップとして付き合う姿勢を持つべきではないかと考えています。
100%実現は難しい。あたえられた条件の中で最適なものを選ぶことがエシカル
想像力をはたらかせて、その瞬間にいいと思うものを選ぶ。
創造力をはたらかせて、いいものを長く使える楽しみ方を考えてみる。

かつてパタゴニア創業者のイヴォン=シュイナードから、フェアトレードを伝える活動を続けてもいいのかと悩む末吉さんにかけられたのが、つぎの言葉だそうです。
何もしなければ問題の一部になり、何かをすれば解決の一部になる

何を言うかではなく何をするかで物事は決まっていくのであるということ、心に留めておきたいですね。
会場




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■第一篇